生き物・学び・研究センターブログ
2017年10月30日(月)なぜおとなになっても遊ぶのか?
新しい論文が出ました!(詳しくはこちら)今回は『おとな同士の社会的な遊び』をテーマにおこなった研究成果についてかいつまんでご紹介します!
わたしたち人間も含む多くの動物は幼いころには頻繁に遊びます。しかしおとなになっていくにつれて,遊ぶ頻度は少なくなっていくのが通常です。ただし,中にはおとなになっても遊んでいるのが確認される種もいます。人間やわたしたちに近縁なボノボがその例です(Hare and Yamamoto, 2015)。一方チンパンジーはボノボにとても近い動物ですが,逆におとなになるとあまり遊ばなくなると言われています。
なぜこのようなことになっているのでしょうか?
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ボノボの遊び
調べてみると,いくつかのことがあきらかとなりました。熊本サンクチュアリには,他の日本の動物園などでは見られないオスだけの集団が存在します。オス・メス混合集団に比べて,オスだけの集団では遊び行動が増加していることがあきらかになりました。オス・メス混合集団ではほとんど遊びは見られませんでしたが,見られた遊びはほとんどがオスを含むものでした。また,遊びが夕食前の緊張が高まるタイミングで増加していたことから,オス同士の緊張解消に役に立っている可能性が考えられました。
では,遊びは仲の良い個体同士がおこなうのでしょうか?
チンパンジーにはさまざまな社会交渉がみられますが,そのうちのひとつに毛づくろい(グルーミング)があります。オスだけの集団で,相互毛づくろい(お互いが毛づくろいしあう)は,調べてみるとケンカの頻度と負の相関があり,ケンカを直接しあわない仲の良いペアによくみられることがわかりました。一方で,遊び行動はケンカをよくするペアでも頻繁に観察され,相互毛づくろいとは負の相関を示しました。つまり,相互毛づくろいを頻繁にする仲良し同士はほとんど遊んでおらず,逆に相互毛づくろいをほとんどしないような個体のほうがよく遊んでいたのです。
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ジェームス・コイコ・ローラの毛づくろい
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おとこ同士の遊び
この結果は,おとな同士の遊びの進化や動物福祉の評価方法を考えるうえで重要な結果だと考えられます。わたしはこれまで動物の社会性についてや,社会性を考慮した飼育管理に関する研究をおこなってきました。これからもチンパンジーやロリスをはじめ,さまざまな動物種を対象に研究に取り組んでいきたいと思います。
山梨 裕美
生き物・学び・研究センター
主席研究員