生き物・学び・研究センターブログ

2025年5月5日(月)標本棚のラベル裏005 トナカイ(角)

京都市動物園は1903年の開園以来、様々な動物を飼育してきました。
動物が死亡した後は、教育普及・研究を目的として、標本を作製し保存しています。
このブログでは、現存する所蔵標本を、ラベルに載せ切れない情報とともにご紹介したいと思います。

トナカイという名前については、知らない人の方が少ないのではないでしょうか。
サンタ・クロースのそりを曳くという、あのトナカイです。

動物の「角」は、その構造から大きく4つに分かれます。
ウシ科とプロングホーン科の洞角(ホーン)、シカ科の枝角(アントラー)、キリン科のオッシコーン、そしてサイ亜目の角。
シカ科は通常オスのみが角を持ちますが、トナカイのみ例外的にメスも角を持ちます。
これは、雪の下から餌を掘り起こすために角が必要だからだとされています。
トナカイでは最も大きな角が後方に伸びるため、この写真は右側が前ということになりますね。
また、シカ科の枝角は、基本的に1年に1回生え変わります。
この標本も、根元に切断した痕跡がないことから、自然に脱落したものであろうと推測されます。

この角は、元職員が寄贈したもので、当園で飼育していた個体ではありません。
京都市動物園では、現在トナカイは飼育していません。
1936年には当時の陸軍が2頭のトナカイを連れてきたという記録がありますが、その後継続して飼育することはなかったようです。

和名のトナカイはアイヌ語からの借用で、英名はカリブー又はレインディア(reindeer)、漢名は馴鹿。
半ば家畜化されている生き物なのでrein(手綱)とつくのかと思いきや、「角のある獣」という言葉に由来するとか。
アイヌ語の語彙ということはアイヌが飼育していたのかと思いきや、更に北方の樺太民族の言葉からの借用だったり、では日本にいなかったかというと、考古学的研究からはかつては日本列島に到達していたとされるなど、知れば知るほど味が出る生き物でした。


土佐