生き物・学び・研究センターブログ
2026年7月17日(金)標本棚のラベル裏052 ニホンツキノワグマ(オス推定27歳、足標本)
動物が死亡した後は、教育普及・研究を目的として、標本を作製し保存しています。
このブログでは、現存する所蔵標本を、ラベルに載せ切れない情報と共にご紹介したいと思います。

当園で所蔵している標本には「成形皮」と分類されているものがあります。
小難しい名前ですが、「体の一部分だけの剥製」と考えていただくと分かりやすいかもしれません。
写真は、成形皮標本の一つ、ニホンツキノワグマの右前後肢。
左が前肢、右が後肢になります。
クマの仲間の足の特徴として、まず蹠行性であること。
つまりヒトと同様に地面に踵を着けて歩きます。
これにより直立する際の体の安定性を獲得している一方、早く走ることはどちらかいうと苦手。
それでもヒトが追いかけられた場合、特に足場の悪い山中では逃げ切れないと言われます。

ニホンツキノワグマに襲われないようにするのは、出会わないのが一番。
目撃例やクマの痕跡(フィールドサイン)から自治体が注意喚起をしていることも多いので、最新の情報を受け取ることが大切ですね。
このフィールドサイン、足跡や糞、木の爪痕などがありますが、クマへの恐怖心から他の動物のものを誤認することも多いとか。
クマの仲間の足跡は、前肢と後肢で全く異なったものになります。
大きな肉球型の足跡とヒトの足のような足跡が混じり、5本の指や爪の跡がある場合、クマのフィールドサインである可能性が高くなります。

足跡のイラストを作ってみました。
左が前肢、右が後肢。
クマの足の裏にはイヌやネコと同じようにいくつか肉球があり、各々に名前がついています。
手のひらの肉球は掌球、指の肉球は指球、手首の肉球は手根球。
以下、前肢の話となります。
手根球は、樹上性の強いクマでは毛がなくなり掌球と連続する一方、地上生活の割合が高いクマでは掌球から分離する傾向にあります。
ニホンツキノワグマは前者なのですが、通常前肢の手根部を接地させず歩きます(半蹠行性)。
このため、足跡として残るのは、イラストのように指球と掌球だけとなるようです。
一方、地上性の強いヒグマの前肢の場合には、掌球の後ろに円形の手根球が残ることがあります。
(単に手根球を接地しなかっただけの可能性もあるので、手根球の跡がないからといってニホンツキノワグマとは断定できません。ただ、これら2種は生息地が重なっていないため、日本国内であれば足跡が発見された場所により種が特定できます。)
もし手根球がある二ホンツキノワグマの足跡イラストに出会ったら、描いた方に、「それ本当?」ときいてみるとよいかもしれません。

この個体は、1975年(昭和50年)に滋賀県猟友会朽木支部から寄贈を受けたオスのイチロー。
動物個体カードには、出生年は1975年と記載されていました。
これが正しければ2002年に27歳で死亡したことになり、比較的長寿であったといえるでしょう。
なお、この標本は、「足標本セット」としてキリンの足標本とともに貸出しを行っています。
貸出先は教育機関のみとなりますが、ご興味があれば動物園までお問い合わせください。
土佐
参考資料;
- 環境省 自然環境局 野生生物課 鳥獣保護管理室(2016):豊かな森の生活者 クマと共存するために,https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs5/docs5-kuma.pdf[Verified 11, July 2026]
- 山口県自然保護課、山口県立博物館、山口県農林総合技術センター(2025):山口県ツキノワグマの痕跡の見分け方マニュアル ver.1.1,https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/uploaded/attachment/226646.pdf[Verified 11, July 2026]
- Orndorf, N., Garner, A. M., and Dhinojwala, A. (2022): Polar bear paw pad surface roughness and its relevance to contact mechanics on snow. Journal of the Royal Society, Interface, 19(196), 20220466.
- M, A, Glover. (1929): Carnivora from the Asiatic Expeditions. American Museum novitates, 360.
