生き物・学び・研究センターブログ

2026年8月14日(金)標本棚のラベル裏054 アミメキリン(オス18歳、足標本)

動物が死亡した後は、教育普及・研究を目的として、標本を作製し保存しています。
このブログでは、現存する所蔵標本を、ラベルに載せ切れない情報と共にご紹介したいと思います。

更に引き続き「成形皮」のご紹介。
アミメキリンの足の標本です。
いわゆる中手骨などは含んでいないので、足先部分の標本と呼ぶのが正確でしょうか。

蹄を持つ動物は、我々でいう爪先だけで歩いていることになります。
この標本について話す際にも、「アミメキリンは指先で歩く動物と比べて少しでも1歩の歩幅を大きくすることで速く走るようになった」と蹄行性の説明を行います。
もちろんこれは間違いではないのですが、では足の長い有蹄動物ほど速く走れるかというと、実はそうでもないのです。
キリンは時速50~60kg/時で走るのに対し、もっと足が短いはずのウマも同じ速度で走ることが可能なことを思い出してみれば、納得していただけるかもしれません。
歩行時の効率を調べた研究によれば、キリンには足の長さに見合った筋肉量がないため、ウマなどと比べて歩く際の効率が悪くなっているとのこと。
キリンは高いところにある餌を食べるために背が高くなり、そのために運動能力を一部犠牲にしているのです。

高いところにある餌を食べるために背が高くするのなら、そして足を伸ばすことでむしろ相対的に効率の悪い走り方になるのなら、首だけを伸ばすという進化もあり得たはず。
なぜキリンの首の長さでウマの足の長さの生き物がいないのでしょう。

キリンは、高所にある頭まで血液を送るため、高い血圧を維持しています。
首だけが長い仮想キリンと現生キリンで、左心室が消費するエネルギーを計算した論文がありました。
これによれば、キリンは足を伸ばし心臓の位置を高くすることで、必要な動脈圧を低くしてエネルギーの節約しているとのこと。
高い背を維持するために、様々な部位が特殊化しているのですね。
なお、この仮想キリン、論文料中では、エランドの体にキリンの首をもつキメラ「Elaffe(エラフ、又はエラッフェ)」として登場するのですが、なかなかに愛嬌のある姿をしています。

この標本の由来は、1976年生まれ、1977年来園の東山。
前述のとおり、当園では、蹄で歩く蹄行性動物の例として紹介しています。

土佐

参考資料;

  • Basu, C. and Hutchinson, J. R. (2022): Low effective mechanical advantage of giraffes’ limbs during walking reveals trade-off between limb length and locomotor performance. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 119(28), e2108471119. https://doi.org/10.1073/pnas.2108471119
  • Seymour, R. S. and Snelling, E. P. (2025): How long limbs reduce the energetic burden on the heart of the giraffe. The Journal of experimental biology, 228(20), jeb251092. https://doi.org/10.1242/jeb.251092