飼育員ブログブログ
2025年12月10日(水)【論文】動物園と家畜のウェルフェアをつなげる屠体給餌。-ジャガーへのニワトリ屠体給餌による動物福祉の改善、教育効果について調査しました!-【ミワ、アサヒ】
以前、京都市動物園ではジャガーを2頭(ミワとアサヒ)を飼育しておりました。

当時、行っていた屠体給餌プログラムについての調査結果が論文になりましたので、
報告させていただきます。
(以降、屠体の写真が出てきますので、苦手な方は注意して閲覧ください。)
そもそも、屠体給餌とは??
「有害捕殺されたイノシシやシカの屠体を肉食動物に与えることで、
来園者向けの野生動物管理に関する教育や、
肉食動物のアニマルウェルフェア(以降AW)向上が
目的とされている(細谷ら2019;伴2021)給餌手法のこと」です。
ここで言う【屠体】とは、動物の姿そのままの姿をした餌のことです。
また、イノシシやシカに限らず、ニワトリ、ウシなど
野生動物でなくとも、そのままの姿の餌であれば、【屠体】と言います。

(1枚目シカの屠体、2枚目ニワトリの屠体)
これまで多くの動物園で様々な屠体給餌が行われているのですが、
実際、屠体を与えられた肉食動物の行動にどんな変化が起きているのか、
また、屠体給餌企画に参加した来園者はどんなことを考えているのかは、
明らかとなっておりませんでした。
そこで、今回はジャガーを対象に、動物園の場を活用した、
畜産のAW啓発のためのニワトリ屠体の給餌を実践し、
以下の点を調査してみました。
①屠体を与える前日、当日、翌日で行動は変化しているのか。
(シカとニワトリの屠体の給餌効果を比較して)
②ニワトリ屠体給餌企画に参加した来園者は何を感じたのか。
まずは、①について!
今回は2種類の屠体【シカ、ニワトリ】それぞれを準備しました。
2024年2-3月にシカの屠体を与えた日とその前後×4回(計12日間)
2024年4-5月にニワトリの屠体を与えた日とその前後×4回(計12日間)
それぞれを設定し、当時飼育していたアサヒのみを対象に行動観察を行いました。
その結果が以下になります(岡部ら, 2025を改変)。
【シカ屠体の給餌期間】
【ニワトリ屠体の給餌期間】
シカ屠体、ニワトリ屠体それぞれを給餌した日のみ
採食行動が増加する結果となりました。
また、ニワトリ屠体を給餌した日のみ
常同行動(さも無目的にウロウロする行動)が減少する結果となりました。
つまり、屠体を給餌することで、採食時間が増え、
屠体の種類によっては、好ましくないとされる行動が減少することが分かりました。
この両者の効果の違いについては、さらなる調査が必要ですが、
ニワトリ屠体の羽根が採食の難しさに影響を与えている可能性が考えられました。
総じて、ニワトリ屠体の給餌により、ジャガーの福祉が改善することが分かりました。
続いて、②について!
2021年に開催していたジャガーにニワトリ屠体の給餌を行った際に、
回収したアンケートの自由記述を再度分析しました。
上記の企画の主目的は、ニワトリ屠体の給餌を
ジャガーのミワとアサヒに与える企画を行うことで、
同時にニワトリのAWについて、来園者の関心を高めたいという、
ややアバンギャルドな挑戦をしたものでした。
その分析結果が、こちらです。(岡部ら、2025を改変)
上記はテキストマイニングという分析方法で、自由記述を解析した図です。
単語を囲んだ丸が記述された回数を示しています。
線でつながった単語は、同時に同じ文章に出現した割合が高いことを示しています。
分析ソフトが自動的に、同時に同じ文章に出現した割合の高い単語をグループ化しており、
つまり、ひとつのグループ(今回は数字:01,02,03,…で示しています)は、
一つの文章を示している、という図になります。
屠体給餌を見た感想として書かれた自由記述には、
A.屠体を食べているジャガーの印象
・普段と違って、野生のような食事を動物園で見ることができた。(01群)
・時間をかけて食べていた。(02群)
・ガツガツしないで意外と舐めていたのが面白かった。(04群)
B.動物園の動物や鶏の飼育環境に関する記述
・ジャガーや鶏の飼育環境について考える機会になった。(05群)
C.フードロス削減に関わる記述
・人間も命を頂いていること感じた。(06群)
といった、記述が見られました。
つまり、企画の趣旨である、ニワトリの福祉に関する啓発効果も認められつつ、
自らの食生活環境を振り返る機会になったことが考えられました。
これらの結果を踏まえ、ニワトリの屠体給餌展示により、
動物園の展示環境を、畜産AWの 啓発の場として活用することができ、
同時に飼育動物の採食環境の改善することができたと考えられました。
論文は以下のリンクから無料で読めます。
https://doi.org/10.20652/jabm.61.4_117
行動観察、アンケートの実施にご協力いただきました皆様に
厚く御礼を申し上げます。
動物園と畜産をつなぐ屠体給餌
―ニワトリを活用した屠体給餌プログラムが来園者と動物に与える効果―
岡部光太1 、福泉洋樹1、中原文子1、河村あゆみ1、松阪智子1、山梨裕美1、加瀬ちひろ2、植竹勝治2
1京都市動物園、2麻布大学
これまで日本の動物園で屠体給餌が行われてきたが、動物の行動への影響や来園者への教育効果に不明瞭な点があった。本資料では、京都市動物園で実施したニワトリを活用した屠体給餌に着目し、来園者への採卵鶏のアニマルウェルフェアに関する啓発効果と、ジャガーの行動に与える効果を調査した。教育効果は2021 年10 月から11 月に実施した屠体給餌プログラムでの参加者アンケート(195 件)の自由記述をテキストマイニングで評価した。行動評価は2024 年2 月から5 月にジャガー1 頭を対象に実施した。結果、自由記述には、採卵鶏の飼育環境への関心の喚起やフードロス削減に関する記述が認められた。ジャガーの行動は、ニワトリの屠体給餌時に、先行研究同様、常同行動が有意に減少し、採食行動が有意に増加した。つまり、ニワトリの屠体給餌により、採卵鶏のアニマルウェルフェア啓発に貢献でき、また、肉食動物の採食環境を改善する効果が望めた。
