生き物・学び・研究センターブログ

2026年3月26日(木)[イベント報告]3/22 シンポジウム「動物園にねむる資源(たから)を見つけ出せ」について

2026年3月22日 13時30分から、京都市動物園レクチャールームにて、シンポジウム「動物園にねむる資源(たから)を見つけ出せ」を行いました。

第1部は4人の話題提供者から、動物園がもつさまざまな資源(たから)について説明と、その活用法についての提案がありました。以下は、それぞれの発表の要約です。

 田中 正之(京都市動物園 副園長/生き物・学び・研究センター長)
 今回のシンポジウムについて趣旨説明を行った。今回の話題提供者の皆さんは、田中が研究代表者を務める科研費のプロジェクトで、共同研究者として加わってくれている方々で、かつ話題提供者の一人である生田目美紀先生を代表とする別の科研費のプロジェクトでも共同研究者として加わっているメンバーであることを紹介した。(科研費のプロジェクトについてはこちらのページを参照)

「長く続けているから見えてくる:「チンパンジーたちのお勉強」の17年」
 田中からは、2009年から京都市動物園で続けている「チンパンジーたちのお勉強」を紹介した。2014年からはゴリラのお勉強も始めて現在まで続けていますが、その間に記録した個々の成績のデータだけでなく、「お勉強部屋でのエピソード」の映像記録も蓄積されていて、それらのうちの一部をブログや動画として、京都市動物園ホームページやYouTubeの【公式】京都市動物園チャンネルで紹介していること、それらを年ごとにまとめたページ「お勉強アーカイブス」を公開していることを紹介した。とくに長く続けていくことで、個体の変化や、移動や誕生などで途中から加わった個体が「お勉強」に関わっていく過程が記録されており、その過程こそがとても興味深く、貴重であることを紹介した。その他、動物園で行っているさまざまな研究について、映像記録をはじめとした記録を残しているので、それらを有効に活用できるようなかたちで公開していきたいことをお話した。

 吉田 信明(京都高度技術研究所 ICT研究開発部長)
「ICTは動物園の学びを「拡張」できるか」
吉田は、「ICTは動物園の学びを「拡張」できるか」として、これまでの京都市動物園におけるICT活用の取り組みを振り返った上で、今後の動物園でのICT活用の可能性・方向性について述べた。動物園は、直接生きた動物を観察できる博物館である一方、それには、来園すること、直接観察することが必要である。その一方、コンピュータやネットワークを利用することで、そのような制約を取り除き、動物園の役割を「拡張」できる可能性があると考えられる。その中で、特に重要な要素として種々のデータ(映像・画像、飼育記録、その他)がある。これまで、これらのデータを収集・蓄積し、分析する技術について、研究開発を進めてきた。これらを基礎として、動物園における学びでのICT活用についても取り組んできており、市民によるオンライン観察の可能性検証などを行ってきた。今後、これらをさらに発展させていく計画である。

 生田目 美紀(京都女子大学 家政学部 教授)
 「動物園は、誰ひとり取り残さない学びの場になれるか ― 包摂をめざすDXプロトタイプ」
京都女子大学の生田目からは、視覚障害や聴覚障害のある人々のミュージアム利用に関する現状が報告された。多くの当事者が動物園等を訪れた経験を持つ一方で、展示情報が十分に得られず、体験を楽しみにくいという課題が明らかとなった。これに対し、触覚で学べる3D模型や改良されたぬいぐるみ教材、音を視覚・触覚で伝える装置、鳴き声を楽しむアプリなど、これまでに開発された教材・展示が紹介された。これらは当事者と協働して開発された点に特徴があり、乳幼児や一般来館者からも好評を得ていることが示された。こうした協働の取り組みは広く動物園への関心や来館のきっかけを生み出す役割を果たしている。さらに今後の展開として、京都市動物園の協力のもと、田中、吉田、塩瀬らと共に始動したDX動物園プロトタイプが報告された。VR・ARによる観察体験、市民参加型の研究、メタバースでの交流、個体プロフィール図鑑などが提案され、参加者や市民との協働が広く呼びかけられた。これらの取り組みを通じて、動物園は来園が難しい人も含め、誰もが関わり、学びを深める包摂的な場になり得ると締めくくった。

 塩瀬 隆之(京都大学総合博物館 情報発信系 准教授)
「多様な他者との協働が拡張する学び-動物映像の教材化におけるインクルーシブデザインしてみる-」
最後は、京都大学の塩瀬が田中、吉田らと共同で進めた動物のモニタリング映像の社会教育利用で実践した2017年のバクの出産パブリックビューイングや2016年のPepperを使った飼育員助手プロジェクトなどを紹介した。さらに、さかのぼること2009年から取り組んだ動物園のインクルーシブデザインによる当時のリニューアル提案についても概説した。視覚や聴覚に障害のある人、車椅子ユーザーや遠位型ミオパチーなど、“エクストリームユーザ”との協働が、動物園の見え方や学びのデザインをどのように変えてきたかについて紹介した。キリンと目線の近い展示施設や足元が見えるレッサーパンダの空中通路、触ってわかるゴリラの手形など、誰にとっても優しい動物園デザインにも通底し、さらに見えない人と見るシマウマ描画がテレビの科学番組にも反映されている。多様な参加者を巻き込めばこそ、個の気づきから誰にとっても興味深い「公の関心ごと」が見つかる「みんなをまきこむ動物園」構想であり、当時と違って思いついた想像を速やかに実装できる技術環境が追い付いてきた印象がある。動物園の資源を社会教育だけでなく、学校教育へも橋渡しする実践も同様で、多様な他者と協働する学びの拡張を次々に社会実装できるチャンスを活かしたいとして締めくくった。

第2部は、パネルディスカッション「みんなが研究者になる動物園」として、今回のシンポジウム開催にあたって、事前に参加者からいただいていた「動物園に眠る資源(たから)」とその活用法についての提案を一覧にして紹介しながら、各パネリストからコメントを述べてもらった。当日までに各話題提供者へこれらの提案を共有しており、前半の発表の中でも一部の話題提供者は、それらの提案に対応して話をしてもらった。

最初に注目された提案は、過去に飼育された動物に関する記録の活用だった。動物園にデータとして記録されている映像や写真、その他の飼育記録などは、歴史のある京都市動物園だからこそ、最近亡くなったり他園へ移動した動物、あるいは10年前・20年前に飼育されていた動物に関する記録の中にも、展示に活用できるものがある。また、動物園だからこそ、野生動物の生息地の情報も伝える工夫をするべきという提案もあった。

掲示物を展示するスペースには限りがあるが、現在ならデジタル技術によりスマートフォンをかざせば参照できる仕組みを作ることも技術的に可能なので、そのような仕組みも作っていきたい。

また、生田目の発表にあった、来園者が動物を観察するためのツールを開発して、来園者による観察記録もデータとして活用できる仕組みを作る話も話し合われた。一方で、すでに大量に投稿されている動物園発のブログや公式SNSなどの情報から、動物に関する情報を取得できるような仕組みも可能になる。

話題提供者からの発表や、参加者からの提案を含めて、現在の情報通信技術では、ほとんどのことが実現可能である。ならば、何を常時展示して、何を必要に応じて取得できるようにするかは、動物園として考えなければならない。

パネルディスカッションの中では、話題提供者がかつて行ったワークショップや教育プログラムは、10年以上前のものでも、今では十分に興味深く、当時は技術的に十分に意図した効果を出せなかったものも、今の技術レベルなら十分可能であり、改めて実施してみる価値がありそうだ。今回のシンポジウムを出発点として、次年度以降で、今回紹介したものを実践していきたい。

田中正之