救護センターブログブログ

2025年10月2日(木)事例紹介、5月のトビ

野生鳥獣救護センターです。
本日は、放野のお知らせです。

人通りの多い繁華街でトビが保護されました。鴨川上空でもよく見かけるトビが百貨店の前でうずくまっていたとの稟告でした。

上空にいるトビは小さく感じますが、トビはかなり大きな鳥です。オスは体長58.5-59㎝、メスは68.5㎝、翼を広げると157-162cmという大きさです(参照:平凡社 決定版日本の野鳥650)。
繁華街に大きな鳥がいることが珍しかったのかトビ自体が珍しかったのか、外国人観光客で人だかりができ、ぐったりしたトビをつついたり触ろうとする人がいたそうです。トビはスカベンジャー(腐肉食動物又は屍肉食動物)とはいえ猛禽類です。鋭い爪と嘴を持っていますので安易に触ろうとするのは危険です。このままでは負傷者が出かねない、と思った救護者さんが安全に捕獲し搬送くださいました。偶然にも鳥の扱いに慣れた方でした。

搬送されてきたトビはかなりぐったりとしていました。栄養状態は良いものの、口腔内、気管内には出血の痕がありました。こういった出血の痕は衝突事故の時にみられます。衝突の衝撃が体中に響き渡り、体内の骨が折れたり内臓を損傷した時の吐血喀血の場合もあります。
ひとまず容態の安定と回復を図るために、保温と酸素吸入を行いました。

酸素室で酸素投与を受けている時のトビ。閉眼しぐったりしています。


ここまで状態が悪いと、餌や水分を与えることも状態悪化のリスクとなりますので、症状緩和の注射を行うのみにとどめ、しばし様子観察としました。
チラチラと扉越しに観察していると、はじめはじっと閉眼したままだったのが、時間経過とともに開眼し、眼の活力もみられはじめました。時折ゴソゴソと体動する様子も確認できるまでに!
状態を確認しながら少しずつ流動食を与え、さらに回復するのを期待しました。
その後も吐血や喀血、嘔吐もなく経過し、栄養も摂りながらトビはグングンと回復していきました。なんと数日後にはしっかりと飛翔できるまでに!搬送されてきた状態が状態でしたので、トビの生命力に感動いたしました。ここまで回復できたら、あとは日にち薬。自然に帰って療養とリハビリをするべく放野のはこびとなりました。

LUCK!PLUCK!

「擬死行動(死んだふり)」をしてやり過ごそうとしていますが、眼光は鋭く担当者をしっかり観察しています。

トビは窮地に立たされると、「擬死行動(死んだふり)」をしてやり過ごす傾向があります。このトビもやはり診察や移動などで人が近くに寄るとこの画像のとおり、擬死行動が観察されました。こういった場合は擬死行動なのか、本当に状態が悪いのか、見極めなければなりません。トビには申し訳ないところですが、しっかり観察させてもらいます。翼をおとし首をうなだれ「体調が悪い時の鳥」という雰囲気です。しかし眼を観察してみましょう。眼光は艶があり鋭く担当者をしっかり観察しています。擬死行動でやり過ごそうとしています。担当者が立ち去るのを確認するために視線はしっかりと担当者に注がれていました。

救護センターは「あんなに元気そうだったのに」と思っていた個体が急変して死亡したり、「もう厳しいかな」と思っていた個体がV字回復をしたりと悲喜こもごも、予想外の展開ばかりではありますが、1羽でも多くの命を救い、その1羽が自然へ帰り生物多様性保全の一助となることを願っています。
これからも担当者の奮闘は続きます!



野生鳥獣救護センター みやがみ