飼育員ブログブログ
2025年11月4日(火)アジアゾウの採血
先日、アジアゾウの夏美ブンニュンの採血を実施しました。
約4か月ぶりに血液を採取することができ、
検査結果も異状なしでした。
京都市動物園のアジアゾウたちは月に1~2回、
定期的に採血を行っています。
これは健康管理と繁殖生理の確認のために
定期的に実施しています。
夏美ブンニュンは採血で耳裏を触られるのが苦手で、
採血ができなくなる期間がこれまでもありました。
今回は苦手な採血が「普通の時間」になるよう、
取り組んできた内容をご紹介します!
動画もあり少し長いですが、ぜひ京都市動物園のアジアゾウたちの
取り組みを知っていただけたら嬉しいです。
ちなみに、京都市動物園のアジアゾウのトレーニングは
応用行動分析学(ABA:Applied Behavior Analysis)を基に
この10年間試行錯誤しながら取り組んできました。
まずは「強化子(ごほうび)」の選定です。
これまでは「ムシイモ・ムシニンジン・乾パン」を中心に
採血の時だけの特別なごほうびを準備していました。
しかしある日、ムシイモとムシニンジンを避けるようになり、
トレーニングにも集中できなくなってしまいました…
そこで新しいごほうび探しが始まりました。
たまたま冷凍保存していた食パンを試したところ
とても反応が良くトレーニングにも集中できるようになりました。
そのためAmazonほしい物リストを活用させていただき、
色々なパンをご寄付いただきました。


いつもご支援いただき本当にありがとうございます!
トレーニングでは投げ与えやすく、そしてゾウたちがほどほどに
食べやすい大きさにカットしています。
サイズが小さすぎると、鼻での拾いにくさから集中力が低下してしまい、
逆に大きすぎると食べ飽きやカロリー過多になってしまい、
毎日、継続してトレーニングしづらい状況になってしまいます。
好物のごほうびだからこそ、量やタイミングなど使いどころが肝心です。
ごほうびの準備ができたら、少しずつ採血に慣れさせていきます。
この慣れさせることを「馴致」と呼んでいます。
実際の動画はこちら→採血馴致
公式Youtubeの概要欄にも詳細を記載していますが、
この動画は本番一歩手前の馴致動画になります。
初めて採血に取り組む際には、
体を横付けする→耳を触る→耳裏にタオルをあてる…など
順序立てて馴致の段階を進めていきます。
特に注目していただきたい場面は1:46~のタイムアウトのシーンです。
タイムアウトとはABAでいう負の弱化の一種で、
行動の直後に何かを取り除くことで、その行動が減少することを指します。
例)子どもがおもちゃを持って騒いでいた
→おもちゃを没収したら騒ぐのをやめた
行動が「騒ぐ」で、取り除くものが「おもちゃ(強化子)」になります。
今回の夏美ブンニュンの場合は、
行動が「受診姿勢が崩れる(頭を倒してくる)」で、
取り除くものが「食パン(強化子)」になります。
今回、強化子はごほうびのことですね。
タイムアウトを30秒間取った際、動画にあるように
夏美ブンニュンは同じ姿勢のままじっと飼育員たちを
観察しているように思われます。
これがとても大事な時間で、
なぜ食パンがもらえなくなったのか?
どうしたら食パンがもらえるのか?
というように思考を巡らせていると推察されます。
事実、2:20~トレーニングを再開してからは、
受診姿勢が崩れることなく、採血の馴致を終えることができました。
特に1回目で受診姿勢が崩れた耳裏を消毒する処置を
2回目(3:12~)に実施した際は受診姿勢を維持していました。
そして翌日に実施した本番がこちら→採血本番
馴致の際、耳裏をアルコール綿花で消毒した時にみられた
受診姿勢が崩れる様子はありませんでした(0:45~)。
夏美ブンニュンが前日の馴致の際に学び・考え・選択した結果を
本番でも実行してくれたように思います。
チクっとする痛みもある苦手な採血を、本当に頑張ってくれました!
まだまだ針を刺す直前や刺してから血液を採取している間など、
少し動く素振りもあり万全な状態とはいえないかもしれません。
ただ4か月ぶりに安全に採血が成功したこと、
食パンという大好物に出会えたことを成功体験として、
これからも継続してトレーニングを行っていきたいと思います。
そのため、食パンのご寄付を今後もお願いしたいと考えており、
是非ご支援いただければ幸いです。
また今回のブログや動画で、
トレーニングの様子や学術的な背景
飼育員や獣医師が協力して取り組む様子
アジアゾウのトレーニング時の反応など
動物園の日々の取り組みのひとつを知っていただけたら嬉しいです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
そして是非、アジアゾウ含めいろいろな動物たちに会いに
京都市動物園にお越しください。
お待ちしております。
アジアゾウ担当 アラマキ
