生き物・学び・研究センターブログ

2025年12月8日(月)標本棚のラベル裏035 アカカンガルー(頭骨、疾病個体)

動物が死亡した後は、教育普及・研究を目的として、標本を作製し保存しています。
このブログでは、現存する所蔵標本を、ラベルに載せ切れない情報と共にご紹介したいと思います。

今回は疾病個体の頭骨標本をご紹介します。
人によってはショッキングな画像ですので、苦手な方はブラウザバックをお願いします。

獣医師として働くに当たり先達からいただいた助言の一つが、「正常像を理解する」です。
何が正しいか理解していないと、どこに病変があるのかが分からない。
当たり前のことなのですが、1種の個体数が少ない動物園では、なかなか難しいことでもあります。
このため、当園で診療に当たる獣医師たちは、ほかの種での経験を援用したり、過去の画像資料を漁ったりして、不足を補っています。
前回のワラビーの記事をご覧いただいた皆様も、既にカンガルー科の頭骨の正常像を理解していただいているかと思います。
その知識を踏まえ、また上の正常な頭骨右面を念頭に置いて、次の写真と比較してください。

左下顎枝の周辺が変形し粗造になっています。
個体のラベリングには昭和50年3月30日に死亡とありました。
飼育日誌をさかのぼると、放線菌症で死亡したとあります。

放線菌症は獣医領域ではウシの疾病として知られています。
これは、口腔内の外傷から放線菌症に感染し、顎の骨が変形していく疾病。
進行すると採食困難や呼吸困難を引き起こし、最終的には死に至ります。
ワクチンはなく、早期に発見できれば、抗生剤などによる治療を行います。
ただ、飼育者が顎骨の変形に気付く頃には治癒困難な状態に進行していることが多く、この例でも救命できなかったものと思われます。

アカカンガルーも、ワラビーと同じく「カンガルー病」に感染しやすい動物です。
この疾病名は正式な病名ではなく、カンガルーの仲間の口腔に発生する感染症を指す言葉なので、この個体もカンガルー病で死亡したと言えるでしょう。

当園でのアカカンガルーの飼育は1931年に始まり、2006年をもって終了しています。

土佐