救護センターブログブログ

2025年7月5日(土)アオバト、新天地へ!

野生鳥獣救護センターです。
遅くなりましたが、5月の愛鳥月間イベントには沢山の方々にご参加いただきありがとうございました。イベントを機に野生鳥獣救護事業について、また身近な自然を守ることから始まる生物多様性の保全について興味をお持ちいただけたら幸いです。

今回は現在すっかり西鳥類舎アオバト舎に馴染み、新しい生活を始めたアオバト、テンチャのお話です。テンチャがアオバト舎に移動してから早いもので3カ月過ぎました。今回は主に救護センターでの様子を振り返ってみたいと思います。

2024年11月9日、1羽のアオバトが救護センターに搬送されました。京都市右京区で救護された個体です。右橈尺骨解放骨折(人で例えると前腕部の解放骨折)という重傷を負っていました。折れた骨を修復するのは不可能と判断、やむを得ず断翼術を行うことになりました。翼を切断するということは鳥にとっては一大事です。命は助かったとしても、今まで通りの生活は不可能だからです。身体的な負担は勿論、精神的負担も計り知れません。
急性期は特に身体面に注目がいきがちですが、同時に精神的ケアも必要となります。私たちはアオバトを助けるために様々な処置を行いますが、アオバトにとっては脅威である捕食者に捕らえられたも同じです。嫌なことはされるわ、怖いものは近くにいるわ、で相当辛かったでしょう。アオバトのストレスが最小限に止められるよう治療と看護を行いました。

術後間もない頃。術創が痛々しいです。


アオバトは人の気配を近くに感じるとなかなか採餌しません。しかし体の回復には栄養が必要です。自力で栄養が摂れない場合は強制給餌を行うのですが、これまた鳥にとっては「嫌なこと」です。ほぼ毎日行うものですから担当者は「嫌なことをする敵」と覚えられてしまい、担当者の姿が見えると「プゥーーッ」と威嚇の声をあげるまでに…。
野生に帰す場合は嫌われたままのほうが、野生に帰った後も人への警戒心を持ってくれるため好都合だったりもします。ですが、この個体は動物園への移動が決まりましたのである程度人を許容してもらう必要があります。
アオバトには嫌なことをしたあとは報酬を与えて、「嫌なことばかりじゃないですよ~良いこともあるよ~」を繰り返して人を許容してもらうよう努めました。結果「大嫌い!怖い!」から「好きではないけれど、存在くらいは許しておいてあげるわ」程度に落ち着いてくれました。神経質で臆病なアオバトにしては大きな進歩だと思います。

そして寒い冬を乗り越えて暖かくなった春2025年3月24日、救護センターから京都市動物園京都の森エリア西鳥類舎のアオバト舎へ移動となりました。救護センターでは個体に対して愛称で呼ぶことは行いません。アオバトと呼んでいました。今後は飼育展示個体となるため、愛称がつけられました。
京都市動物園のアオバトは代々お茶にちなんだ愛称がつけられます。飼育担当者は「テンチャ」と名付けました。碾茶とは臼で挽いてお抹茶になる前のお茶の名称です。

本来であれば元々生活していた自然界へ帰るのがアオバトにとってベストではあります。このアオバトはそれが叶いませんでした。それは悔しいところですが、アオバトには「テンチャ」として来園者の方々に自然を大切にする事、野生動物との適切な距離を持つ事の大切さを伝えるメッセンジャーとして活躍してほしいと思います。

アオバト舎で過ごすテンチャ。術創もほぼ目立たなくなりました。

野生鳥獣救護センター みやがみ